研究室と研究テーマの紹介


地球環境の修復と人類の健康向上を目指した、食品化学的,環境科学的,かつ生物化学的な研究をおこなっています。

1、研究室のメンバー            2、研究内容1(炭水化物系)          3、研究内容2(蛋白質系)

1、食品工学プログラム 秦野研究室

現在,学部4年生2人

配属を希望する学生は、事前に必ず見学に来てください。研究室の説明を受けたい場合には hatano@gunma-u.ac.jp まで予めメールで連絡を下さい。修士課程に進学予定の元気な学生の配属を希望しています。


2、炭水化物系研究

 廃糖蜜とは精糖工場で発生する副産物であり、世界で年間約5100万トンも発生している。廃糖蜜は残存糖を多く含むためにバイオエタノール生産に利用されているが、発酵液の蒸留後の残渣は糖などの有機物や暗色物質であるメラノイジン類似生成物(melanoidin-like products; MLP)量が非常に高いため、そのまま廃棄すると深刻な環境問題を引き起こすため(下図左を参照)、廃糖蜜を発酵する工場は大量の廃液を発生する17大汚染産業の一つといわれている。そのため、微生物による有機物やMLPの分解や、凝集・沈殿、酸化処理によって廃液中のMLPを除去・分解して色度を下げる処理がなされている。しかし、これらの処理には多量の水と広大な土地が必要となり、かえって環境汚染を助長させる事が懸念される。本研究室では以前、酸性化した希釈廃糖蜜を合成吸着樹脂XAD-7HPを充填したカラムに通液する事で廃糖蜜中の残存糖とMLPを分離・回収する非常に簡素なシステムを開発した(原著論文20, 27)。このシステムの特色は、使用する試薬が塩酸と水酸化ナトリウムのみというシンプルさと、発想を転換して脱色工程を従来のような発酵工程の後ではなく、直前に組み込む点にある下図左を参照)。本システムにより得られる糖画分の色度は廃糖蜜のそれと比べて88%も減少させる事ができ、その蒸留残査は嫌気的分解処理後に容易に廃棄する事が可能である。この方法で1 Lの廃糖蜜から約60 gの乾燥MLPを回収できる(原著論文23)。また、MLPが多くの重金属に対してキレート活性を持つ事を最近発見し、各金属イオンに対する結合容量を明らかにした(原著論文30)。

 植物修復とは、水分や養分を根から吸収する能力を利用して土壌や地下水中の汚染物質を植物に吸収させる技術である。従来の掘削除去や化学物質の抽出作業など物理的/化学的修復技術と比べて、安価で広範囲の土壌処理が可能な環境調和型の技術である。一方で、植物修復には生長に時間がかかる点や生育環境によって体内吸収率が異なるという課題もある。これらの解決策として、キレート剤を添加して土壌中の金属の移動性を高めて植物体内への吸収率を上げる試みが世界中で研究されている。本研究室ではダイコンRaphanus sativus やセイヨウアブラナBrassica napus などアブラナ科植物を、MLPを含む各種キレート剤と硫酸銅または硝酸鉛含有培地で栽培した結果「MLPは植物体内に多くの重金属を取り込ませるが、クエン酸錯体のような毒性は示さない」という植物修復促進剤として優れた特性を示す事を明らかにした(原著論文30, 31)。しかし、組織中の重金属濃度はMLP無添加条件と比べて有意に増加している訳ではなく、その原因はMLPによる重金属毒性の低下によるバイオマス量増加である事が判明した(原著論文31)。本研究室では、「重金属毒性をMLPがキレートする事で無毒化しているのか、重金属などの環境ストレスにより植物体内に発生する活性酸素種MLPが消去しているからなのか」を明らかにするために、現在研究を続けている(下図右を参照)。

 本研究は群馬経済新聞社によりインタビューを受け,2020年1月1日の新年特別号の1部1面記事に掲載されました。



3、蛋白質系研究

 イチョウGinkgo biloba は、約2億5000万年前に発生し現存する種子植物の中で最古の種で、生命力が非常に強い。またイチョウは一科一属一種という特異的進化を遂げている事から、分子進化的に特異な蛋白質が含まれている可能性がある。これまでイチョウの葉に含まれるフラボノイド等が主に研究されており、脳の機能不全の軽減などが期待されて欧米では1000万人以上がそのエキスをサプリメントとして服用している。一方、イチョウの種子であるギンナンは中国では肺結核の特効薬として古来より珍重されてきたが、その生理活性物質に関してはまだ多くの研究がなされていない。

 本研究室では、ギンナン中に大量に存在する貯蔵蛋白質(約40 kDa)の他に、10 kDa前後の3種類の蛋白質(A, B, Cサンプル)が豊富に存在する事を発見した。そして、その中のCサンプルに強い抗菌活性(腐植性真菌Fusarium oxysporum などに対して)がある事を見いだした。これまでにCサンプル(Gnk-2と命名)を完全精製して部分アミノ酸配列を決定し、それを参考にしてRT-PCRとRACE法によりコードしている全塩基配列(753 bp)を明らかにした(原著論文17)。

 それによるとGnk-2は、これまで報告された抗菌蛋白質のどのファミリーとも相同性を示さなかった。一方で、白エゾマツなど裸子植物の種子の胚に豊富に含まれている機能未知のembryo abundant protein (EAP) と80%近い相同性を持っていることがわかった。この他にも、被子植物のイネやシロイナズナのreceptor-like protein kinase (RLK) という蛋白質と約30%との相同性が確認された。このRLK蛋白質は、ホルモン応答経路,細胞分化,自家不和合性そして病原菌の認識に重要な役割を担っていることが報告されている。これまでにEAPならびにRLK蛋白質の三次元構造は解析されていないため、現在、共同研究先とGnk-2の三次元構造解析の研究を押し進めている(原著論文18, 24; 右図が決定された構造)。

 一方、Bサンプル(Gb-nsLTP1と命名)はアスパラギン酸型とシステイン型蛋白質分解酵素の阻害活性をもつ約9 kDaの蛋白質であることが明らかとなった(原著論文21)。また完全クローニングの結果、植物の脂肪運搬蛋白質(LTP)ファミリーと高い相同性をもつことがわかった(原著論文21)。LTPファミリーは主に植物の種子に多く含まれていることが報告されていて、キチン形成、胚形成、病原菌からの防御、環境への順応に関するプロセスに関与していると提唱されている。Gb-nsLTP1の詳細な脂肪運搬活性の解析に関しては。原著論文21に報告した。

 今後、本研究室では、Gb-nsLTP1の三次元構造解析と、最後に残されたAサンプルのクローニング、特性解析、構造解析を目指している。Gnk-2Gb-nsLTP1に関しては発現系が確立しているため、遺伝子工学的手法で両蛋白質に様々な改変を加えて、両者の特性を生かした創薬にむけた研究開発も計画している。


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